高齢者を対象とした AR スポーツ教室を実施しました

2022年8月、工学部 石崎教授が芝浦工業大学大宮校舎で高齢者の AR スポーツ教室を実施し、高齢者を対象としたARスポーツ(HADO)実践は運用方法を工夫すれば十分にスポーツとして価値のあるツールになり得るという感触を得た。

【目的】
高齢者の運動意欲は高く、石崎教授が2014 年以降に実施した運動教室には延べ 400 名以上が参加している。そして、継続的な運動実施は,健康維持が保てることが明らかとなっている。一方で、実施する運動内容については、より交流のあるチーム型スポーツへの要望が高い。そこで今年度は非接触型であり性別・年齢・体力などの差を排除できるスポーツとして近年注目を集めている ARスポーツ(HADO)を対象とし、その有効性について検証を行った。

【内容】
対象:さいたま市内に在住する健常な高齢者24名(65歳以上)。
実施日: 2022年8月24、28日
場所:芝浦工業大学大宮キャンパス斉藤記念館
方法:参加者は準備運動(10分)後に3人組を作り、HADO(meleap社製)を3人対3人で行った。HADOは1回80秒間のプレーであるため、休息を挟み、リーグ戦形式で実施した。参加者は練習試合、リーグ戦、順位決定戦と5回のゲームを実施した。プレー中は心拍センサー(H10、Polar社製)を装着し、心拍数、エネルギー消費量を測定した。

【結果】
さいたま市市内に在住の高齢者24名(年齢:74.8±3.4歳、身長:161.7±7.5cm、体重:60.0±11.4Kg、BMI:22.8±2.8)が本調査に参加した。

運動開始から終了後までの平均心拍数は84.1±14.0拍/分(安静時心拍数64.8±8.2拍/分)。消費カロリーは292.0±160.3Kcal(104〜691Kcal)だった。

今回、HADOの説明時間・準備運動含めて約90分の運動だったが、座位の時間が長く、平均心拍数が低くなる結果となった。一方で、ゲーム中に出現する最高心拍数に注目すると、安静時心拍数と殆ど変わらない参加者も見受けられたが、154~175拍/分と高い最高心拍数を記録する参加者もいた。これらの数値については心拍予備(HRR)の観点からすると、80%HRRを超える高い運動強度となっていた。

また、HADOの消費カロリーは、平均300Kcal程度であったため、ウォーキングで例えると「ゆっくり〜早歩き(3〜4Mets)」程度であった反面、600Kcal以上消費する参加者も見受けられた。

このように心拍数やエネルギー消費量は平均でみると、非常に低強度のスポーツとなるが、個別にみていくと、運動強度に大きな差があることが明らかになった。この原因として、初めて実施するスポーツであったためにHADOの理解度に大きな差があったと考えられる。HADOのような体験したことのないようなスポーツを実施する場合は、十分な説明が必要であると考えられる。

HADO後に5件法でアンケートを行った。「楽しさ」については、全員が“とてもそう思う”(67%)、“ややそう思う”(33%)であった。「運動強度の適切さ」は“とてもそう思う”(25%)、“ややそう思う”(50%)と回答し、「運動量が適切か」は“とてもそう思う”(18%)、“ややそう思う”(64%)と言う結果であった。「またHADOをやりたいか」については“とてもそう思う”(59%)、“ややそう思う”(33%)と8割以上がポジティブな回答だった。この結果からHADOという新しいARスポーツが運動量的にも、強度的にも高齢者に好意的に受け入れられると考えられる。

自由記述のコメントを見ても、「気持ちがよかった。子供のように楽しめた。気分がすっきりした。」、「初めての体験で不安があったが実際やってみて高年齢でも十分楽しめ運動の助けになった。」と前向きな内容であった。HADOに肯定的な意見があった反面、「目が疲れた、画像に目が追い付かなくなっている。」という意見もあり、今後高齢者を対象に実施する際には運動と休憩のバランスなども十分考慮する必要があることが明らかになった。

以上のことから、高齢者を対象としたARスポーツ(HADO)実践は、運用方法を工夫すれば十分にスポーツとして価値のあるツールであると考えられる。しかしながら、高齢者を対象としたARスポーツのデータは世界的にも少ないため、今後も継続的に実験を行っていく必要があると考えられる。

公開日 2022年9月26日                                  以上

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