分野別の研究状況
Topics
■研究分野
環境因子由来の疾患の診断・治療法の開発
■メンバー

北川 理(応用化学科教授)
吉見 靖男(応用化学科教授)
幡野 明彦(化学科目教授)
六車 仁志(電子工学科教授)
齋藤 敦史(通信工学科准教授)
濱崎 啓太(応用化学科教授)
須原 義智(生命科学科教授)
福井 浩二(生命科学科准教授)
廣田 佳久(生命科学科助教)
渡邉 宣夫(生命科学科准教授)
花房 昭彦(生命科学科教授)


■研究のポイント・ニーズ


骨粗しょう症治療薬であるビタミンKの脳神経性疾患への適用、末梢神経血行障害治療薬であるビタミンEの認知症に対する有効性など、脂溶性ビタミン誘導体の新たな疾患への適応拡大(ドラッグリポジショニング)を目指した研究を行う。また、匂い・味といった自律神経系への影響に着目し、感性科学を応用した、これまでにない作用メカニズムを持つ神経作動薬を開発する。
循環系疾患の診断法につながる赤血球変形能および血小板粘着能の評価法の開発や、脳腫瘍に対する先端外科治療法の検証に関する成果を発展させた新しい診断法の開発、また、分子インプリント高分子(MIP)固定電極の電流変化を捉えることで血中の薬剤濃度を認識して測る小型・低価格な治療薬モニタリング(TDM)用インスタントセンサを開発する。
創薬やドラッグリポジショニングと、新しい診断法やTDM用センサの開発の両面から、新たな診断・治療法を確立する。


1.脂溶性ビタミン誘導体のドラッグリポジショニング

1−1.ビタミンKの脳神経性疾患への適用

・ゲノム編集技術を用いた脳神経細胞のニューロン分化の標的タンパク質の探索、同定、精製

・in silico解析による、標的タンパク質に高い結合能を有する誘導体の探索

・新規ビタミンK誘導体の合成、iPS細胞を用いた神経幹細胞のニューロンへの分化促進作用の評価

・モデル動物を用いた評価、生理的に有用な新規ビタミンK誘導体の確定

・誘導体の特許出願、オープンイノベーションによる連携

1−2.ビタミンEの認知症に対する有効性

・認知症に対する有効性の検討、メカニズムの解明

・認知症治療に有効な標的タンパク質の同定、有効性の確定

・誘導体の特許出願、オープンイノベーションによる連携


2.感性科学を応用した神経作動薬の開発

・渋味化合物と標的分子の分子間相互作用の解明

・ノックアウトマウスによる作用機構の証明

・解析結果をもとにデザインした化合物の生成、モデル動物による評価

・誘導体の特許出願、オープンイノベーションによる連携、開発


3.医療機器開発による新たな診断法の確立

3−1.赤血球変形能および血小板粘着能評価法を応用した診断法の開発

・血液細胞能力診断法の開発、健康状態との関連性の検証

・診断装置開発に向けた医療機器メーカとの連携

・血液細胞能力診断法の特許取得

・医療機関や企業との連携による脳・胃等の臓器腫瘍除去技術の開発、妥当性の検証

3−2.血中の薬剤濃度を認識して測るインスタントセンサ

・ヘパリン(抗凝固薬)およびバンコマイシン(抗生物質)に対して再現性の高い応答を示すMIPの開発

・エドキサバン(経口抗凝固薬)やフェニトイン(抗てんかん剤)に応答するMIP固定電極の設計

・新規カーボン電極によるセンサのフレキシブル化、高感度化

・各薬剤に対して高い親和性のある新規機能性モノマーの開発

・血液中薬剤濃度検出のための新規信号処理法の開発



■研究トピックス

マラリア自動診断システムおよび低侵襲脳手術支援システムの開発

■研究の概要

マラリアはHIV(エイズ),結核に並び三大感染症の1つであり,発症件数は,年間で2億1200万件,死亡者数は42万9000人に及んだと推定される.マラリアの感染者が多いのは,熱帯地方であるが,十分な確定診断の行える病院の数が少ないのが課題である.マラリア自動診断システムでは,簡便にスクリーニングのできるシステムの開発を目的とした.マラリア感染部の色相と輝度が血球部位の平均値より低いことを利用して感染領域の抽出が可能となった.
脳腫瘍のうち悪性脳腫瘍は,浸潤性であるため正常組織と悪性組織の境界が不明瞭である.しかし摘出率は患者の予後に大きく影響を及ぼすため,可能な限り腫瘍摘出率を向上させなければならない.低侵襲脳手術支援システムでは,従来の鉗子形状に連続吸引システムを導入することで効率化を図るとともに,鉗子の開閉スイッチを設け,鉗子を閉じたときのみ吸引することにより,安全な吸引が行えるようにした.また洗浄水と腫瘍を分離する機構を設けることにより,今後連続的に腫瘍の悪性度を診断できる可能性を示すことができた.


分子インプリント高分子を固定したカーボンペースト電極型センサ

■研究の概要

分子インプリント高分子(MolecularlyImprintedPolymer:MIP)は目的物質を鋳型として合成することで、その鋳型に対する特異結合能を付与された合成高分子です。この高分子の特異結合に応じた電気信号を発生させて、センシングするデバイスを作ることは長らく試みられてきましたが、実用レベルに至った例はありません。そこで本研究では、へパリン(血液抗凝固剤)に対して特異結合能のあるMIPをグラファイト粒子に固定し、油を加えて練ってペースト電極を作製しました。鋳型の濃度によって、電極表面における油水界面の位置が制御されることで、電流が変化するため、その電流を測ることで電流が制御されます。この電極は、こうして作られた電極は再現性が高く、血液中共存物質の妨害も受けにくいことが確認されました。この技術は血液中の様々な物質の濃度を測定するセンサへの利用に期待できます。


雑音下での身体音収集・再生技術の検討
~周囲雑音に強い聴診器の開発に向けて~

■研究の概要

航空機内等における救急医療機器の一つとして聴診器がある.しかしながら,通常の聴診器により取得される音響信号には,目的とする身体音(心音等)のほかに機内雑音が混入し,必要な情報を聞き取ることができない.近年,電子聴診器,ディジタル聴診器が開発されているが,必ずしも,救急医療のための簡便性・常備設置可能性,かつ高品質なものはない.そこで,信号処理技術と聴診器の機能向上による高雑音下でも所望の身体音の聴取を可能とする聴診器開発を行う.


観察点移動機構を有する血液細胞流動撮影装置の構築とその妥当性検証

日本バイオレオロジー学会年会(2018年6月16-17日、名古屋大学(愛知県名古屋市))において成果発表実施


■研究の概要

赤血球変形能測定方法について従来の測定法よりも更に精密評価を可能にするためには、個々の赤血球を制御されたせん断応力環境下で直接可視化評価する方法を構築する事が必要であると我々は考える.これを可能にするため、下記のように流れ場を逆回転円板間に挟む機構を採用したせん断流れ発生機構を構築する.この機構の採用で、流れの中央が対物レンズと相対的に動きがない関係を実現でき細胞のモニタリングが理論上可能になる.我々はこれまでに、このアイデアを検証するため装置を試作し、それを用いて、流れの中で高せん断に起因した赤血球損傷過程を撮影する事に成功した(1).加えて、既存の試作機が、定点撮影といった視野の限界がある事が課題である事が明らかとなった。そこで本研究は、精度良く観察箇所移動機構を付加する形にさらに改良し,その妥当性を評価する事を目的とした。


活性型ビタミンDは受容体を介さずに軟⾻を形成できる!

ビタミンD合成酵素(Cyp27b1)およびビタミンD受容体(Vdr)遺伝⼦⽋損マウスの⽐較から、活性型ビタミンDである1α,25-ジヒドロキシビタミンD3はVdrを介さずに軟⾻を形成する


■研究の概要

ビタミンDはビタミンD受容体(VDR)を介して様々な⽣理作⽤を発揮しますが、近年、ビタミンDがVDRを介さない新たな作⽤が報告されています。そこで、本研究では活性化ビタミンD(1α,25D3)合成の鍵酵素であるCYP27B1の遺伝⼦⽋損マウス(Cyp27b1-/-)とVdr⽋損マウス(Vdr-/-)の表現型を⽐較しました。その結果、1α,25D3が軟⾻細胞の増殖・分化をVDRを介さずに直接制御していることが⽰唆されました。


側鎖末端を修飾したビタミンK誘導体では神経分化活性が変化した!

アルキル化フェニル基をω-末端側鎖に導入した新規ビタミンK誘導体の合成とその神経分化活性の評価


■研究の概要

ビタミンKは⾎液凝固作⽤や⾻形成作⽤といった様々な⽣理作⽤を発揮します。近年、ビタミンKが脳内に⽐較的多く存在することが報告され、神経前駆細胞からニューロンへ分化誘導する作⽤をもつことが分っています。また、私たちはビタミンKの側鎖末端の構造がニューロン分化に強く影響することを⾒い出しました。そこで、本研究ではビタミンK側鎖末端にアルキル化フェニル基を導⼊した新しいビタミンK誘導体を合成し(図1)、ニューロンへの分化誘導活性を評価しました。その結果、ニューロンへの分化誘導活性を低下または増加させる誘導体を⾒い出しました。本実験結果は、将来的な脳神経変性疾患治療薬への応⽤を⽬指す上で、⾮常に有⽤な情報になります。





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